見出し画像

学生の頃の憧れを自分の子どもで叶えた

中学、高校と吹奏楽部に入っていた。入部した時はラピュタのハズーに憧れてトランペットを志望したが、人が足らんということで「ホルン」というかたつむりみたいな楽器になった。かたつむりの殻に手を突っ込んで吹く楽器だ。

不思議なもので、ホルンを吹くようになり、ホルンの優しい音が好きになり、高校に入ってもホルンを吹き続けた。中学でも、高校でも学校の楽器を借りて吹いていたが、やはり自分の楽器が欲しいと思うのは、吹奏楽部員の共通の憧れだろう。

パートメンバーや後輩と楽器店でホルンを眺めたり、ホルンのカタログを見て「このモデルかっこいいよなー!」とか「アレキサンダー(ホルンの有名な海外メーカー)いいなぁ」と話すなどのTHE・青春。

ただ、ホルンという楽器はお値段が高い。一番安いヤマハのシングルホルンでも18万円(25年前定価)。これもホルンあるあるだが、ベルという部分が着脱できて持ち運びに便利という「デタッチャブル」という機能が付くモデルに強い憧れを抱くもので、そのモデルになると、もれなく「フルダブルホルン」という種類になり、40万円以上。

更に強い憧れ妄想だと「シルバー(白銀)のホルンかっこいいよな!」とか「ロータリー(カバー画像の丸い部分)部分に装飾入ってるのかっこいいよな!」とか、そういう妄想を形にすると60万円を越える。妄想が尽きない中二病青春時代。

そんな高価なものを手にすることはなく、学生にとってのお金の管理者であるうちの親は、吹奏楽に対してはやることに理解はしてくれたが、どちらかというと否定的な部分もあり、裕福でもないので金額的な投資はしなかった。吹奏楽の話をすると「音楽では食べて行けない」というのが返される感じだった。

もちろん、自身でも音大に行って…などとは思ってはいなかったので、自分の楽器を持つのは「憧れ」で終わった。憧れは、机の上に置くホルンの小さな置物で満足感を得た。学生は、何でも手に入ることはない。手に入れるなら、それなりの覚悟と実力が必要で、そこまでの熱量は、学生の自分にはなかった。(余談だが、その熱量を持った後輩はプロになった)

それから、25年。自分の子どもが吹奏楽部に入り、「親がやっていたから」という理由からホルンを吹く楽器に選び、中学3年間。今は高校1年生なので卒業まであと2年。受験期間を考えるとあっても吹くのは、あと1年半。

娘が高校に入学して吹奏楽部に入り、ホルンを吹き続けることになった時に、うっすらと自分が高校生だった頃の「憧れ」の感情を思い出した。そして、娘が夏のコンクールの時に老朽化で楽器が壊れて修理に出している間、練習ができないとか、古いので手が緑青(青いサビ)が付いて緑色になるとか、話などを聞いているうちに、「あぁ、自分の楽器があると嬉しいんだろうなぁ」とうっすら思ってはいた。

きっかけがあれば、その想いは形になってしまう。高校に入り、同じ偏差値の人が集まったことにより、定期テストの点数がクラス平均を割ることになった。(ギリ赤点ではないくらいだったと思う)悪い教科は、後ろから2番目とかもあった。ふと「次の定期テストで主要教科の半分が平均点以上になったら、ホルンを買ってあげる。」とポロッと言いました。ただし、次の契約内容を結ぶのを条件とした。

  1. 買うのは中古。新品はごめん。無理。

  2. 高校卒業したあとも使い続けるなら、大人になってからちょっとずつでいいから半額分は支払うこと。

  3. 高校卒業して使わないなら、売ります。その場合は、支払いは不要。

新品は金額的に無理だった。先述の通り、きちんと使えるレベルのホルンを買うとなると、40万円は掛かる。中古車が買えちゃう。娘が最短だとあと1年半で吹かなくなる可能性もあり、もしそうなったとして、売ったとしても半額以下(つまりは20万円以下)しか中古販売価格は付かない。それを背負う親も子どももツラい。所有物が未来の人生の足枷になるのは良くない。

事前にメルカリで軽く調べた限りだと、中古の楽器は新品の半額ぐらい出せば購入できる。いい時代になったものだ。仮に20万円で中古で買えたとして、吹けなくなるほど壊れない限りは、楽器はある程度の値が付く。

それは調べがついていたので、もしあと1年半で吹かなくなり、売ったとしても、購入金額の7〜8割の金額で売れる。なので、3の契約内容とした。

高校を卒業しても、おそらくだが、娘はホルンを吹き続けるだろうと思っている。大学なり、楽団なりに入って吹き続けるだろう。なんとなくだが、そう思うのだ。

なので、2の契約内容は、娘は「将来全額払う」と言ってきたが、それは断った。将来、ホルンが変わらず大好きで、吹き続けるなら、自分で吹きたいと思う楽器に出会うかも知れない。その時、半額の金額なら、娘が手元のホルンを手放せる決断ができる金額だろう。所有物が未来の人生の足枷になるのは良くない。

娘は、この契約を受領した。契約と仰々しく言っているけど、夕飯を食べながらさらりと話したぐらいな感じだった。

時が経ち、親と子は別々のことをする。娘は、勉強をした。もので釣った覚えはないが、きっかけにはなったのかも知れない。オレは、メルカリで毎日検索をする日々となった。ちなみに、娘には言っていないが、平均点を上回ってくるだろうと思ってはいた。まぁ、平均点を越えるというハードル自体が高い目標ではないし、やる時にはやる子だから。

インターネット上で中古楽器を売っているところは一通りみたが、結論からいうとメルカリで買うのを決めた。理由は単純明快でメルカリが一番安く中古品が出てくるからだ。ただ、中古品は欲しい商品が常に売っているわけではない。そして、観測している限り、単価が高い中古楽器でも、品質と価格が良いものは、1日〜数日内で売り切れる。出品されたのをキャッチするのが非常に重要。

娘と話して欲しいと思うホルンは以下の条件だった。

  • 中学、高校でも吹いているのがフルダブルホルンなのでそれがいい

  • 吹いていたのは中学は「YHR-567D」、高校はモデル不明で、中学の楽器の方が吹きやすかった

  • メーカーはヤマハしか吹いたことないから、ヤマハがいい

さすがに吹いたことがないモデルをネットで中古を買うのはリスクが高いので「YHR-567D」のモデルを狙うことにした。

メルカリでは、検索結果を保存して、その検索結果に新着の商品が出てくるとプッシュ通知とメール通知を受け取ることができる。これを設定して、通知が来たらチェック!という方法をとりました。ドンズバの商品を探している場合、とても有力な機能。

実際のメルカリの設定

探し始めて意外にも数週間に1 本ぐらいで出品がある。日本全体だとこのくらいの頻度で出てくるのか…というのは少し驚きだった。ホルンを個人所有している人ってそんなに居るんだ…と。

新しい出品が出てきた時に購入検討するラインを定めることにしました。

  • 価格が20万円以下(送料込)

    • 新品定価が41万円ぐらいなので、中古なので半値を目安とした

  • かなりのキズや凹みがあるは不可

    • 多少は全然良いが、娘が高校で使っている楽器レベルで老朽化しているならば意味がない

  • メンテナンスすれば吹けるようになるのは許容

    • メンテナンスは大体3万円ぐらい。本体価格が17万円以下なら、メンテナンスして吹けるなら可

意外にも、これらの条件をクリアする出品が出るのがメルカリだった。中古楽器店より好条件の商品が出てくる可能性は高かったです。

最終的に探しはじめてから、購入に至るまで、ざっくり3ヶ月ぐらいは探してたと思います。その間に、計5回ぐらい上記の条件に近いホルンが出品されました。

最初の頃は、まだ本当に買うかを決めきれてなく、上記の条件のホルンが出ても踏ん切りが付かなく、購入ボタンは押せず、数日内で売り切れちゃうというのを経験しました。マジかー。こんな高額でもみんな躊躇なく買うなぁ。まぁ、買っているのは業者かも知れないけど…。

そんな間に、娘がコロナにかかりました。数日で咳が出るぐらいで動ける状態になったんですが、隔離期間があり、一日中家に居るわけですよ。リア充(本人はそう思ってないみたいだが)の娘は、暇を持て余して夜に友達と長電話をしてるわけです。でも、ずっと咳き込んでいるわけですよ。じゃあ長電話とかするな…と。これが続き、ヨメを不機嫌にさせてしまいました。

そんな中で、メルカリにちょっと条件の良いホルンが出てきたのです。品質はほぼバッチリ。ただ、ちょっと価格が23万円とちょっとお高い。購入するか、悩んでチラリとヨメに「いいホルンが出品されてねぇ…」と話したところ、ピシャリと「ホルンなんか買わなくていい!」と…。タイミング悪かった(苦笑)そのホルンは、購入を見送りました。

娘もコロナから復帰し、咳も治まって学校に行き始めて、しばらくして父兄も参加できるミニコンサートを観に行きました。そこで初めて高校で娘が吹いている楽器を近くで見たわけです。いつもは遠くから見ているので輝いているホルンに見えていたんですが、近くで見るとたしかに老朽化が進んでいました。そりゃ修理出すわな…。

その後、娘の定期テストがはじまる。「次の定期テストで主要教科の半分が平均点以上になったら、ホルンを買ってあげる。」と言ってからだいぶ経っていた。終わってからよく泣く娘だが、「できなかった」と泣いたりもしていた。こればかりは、親はどうにもできない。

ただ、結果として主要教科半分は、平均点以上になった…。お前、「できなかった」って泣いてただろう…。夕食など、数日に渡ってチラリとがんばったアピールをしてくる。「こりゃ、忘れてないな…。」と悟り、本格的にこっそりとホルン探しを続けた。

探している間に、すべての条件を満たすホルンが出品される。きれいなのだが、コメントでやりとりすると、どうやら出品者本人が使っていたものではないらしく、何年ぐらい使ったのかわからないということで悩んでしまった。その間に、他の人との価格交渉をはじまり、購買が成立してしまった。メルカリでは、即断できるかが重要だった…。

その後、しばらく出品が出てくることがなかったので、ちょっと諦めていたところ、仕事の昼休み中にメルカリからの通知が届く。期待薄で開くと、なんとほぼすべての条件がクリアした「YHR-567D」のホルンだった。唯一、「レバーが動きません」との記載があるが、全体的にかなり美品で、使用期間も2年と丁寧に記載されていたので、メンテナンスをすれば吹けるようになると思った。

正直、メルカリで高額購入はしたことがなかったので、ドキドキしましたが、購入ボタンを押す。今までメルカリでゲームやらスマホやら挫折した英語参考書やらを売った売上金も全額投下!カード番号などを入力している間にまた誰かに購入されてしまわないかと思いつつ、最後のボタンを押すとエラー表示が…。

恐れていたことが起きて、誰かに買われてしまったか…と思ったが、まだ売れてない。よくよく見ると先程より少し値段が上がっていた。どうやら購入途中で価格変更が入ったので、エラーになったようだった。その間に、また別の人が値下げ交渉を始めていたが、出品者が断っていた。

「ここで買うしかない!」と思い、再購入を行うと無事購入することができた。ふぅ、メルカリでこんな買い物するとは思わなかった…。かなりドキドキしました。

出品者の方もとても丁寧に対応と発送をしてくださり、数日内でホルンが届いた。開けてみると、とんでもなく美品だった。たしかにレバーは動かないのと、一部の抜差管も抜けなかったので、近所の楽器店に持ち込みメンテナンスを依頼した。

ここまでは、娘にはホルンを購入したことを話していない。内緒にしていた。が、その前にヨメには話さなければならない。「ホルンなんか買わなくていい!」と断絶されたので、避けられない。

子どもたちが寝た夜に、ヨメと交渉。「話さなければいけないことがあります。」と低姿勢で断りを入れてから「ホルンを買いました。」と報告。理解条件は、「(ヨメの)クリスマスプレゼントは多少高価なものを望んでもいい」という条件をもとに(苦笑)

前回は、タイミングが悪かったけど、今回はすんなりと理解をしてくれました。まぁ、オレがどうせ買ってしまうのはヨメは分かっていたんでしょうね。ヨメのクリスマスプレゼントが、DVDからショルダーバッグに昇格したのは別のはなし。

ホルンのメンテナンスは、約1ヶ月掛かるとのことで、娘にそろそろ買ったことを伝えるタイミングかなって思ったので、夕飯の後に「話がある」と娘を呼び出した。

どうやらなにか怒られると思ったらしい。「ホルンを買ったので、引き続き勉強もがんばりなさい。」と伝えると「あれは冗談なのかと思っていた!」とすごく喜んでいた。つくづく、自分の子どもには甘い。

メンテナンスから戻ってきたホルンはレバーもスムースに動いた。メンテナンスされた方からも、きれいな字でメンテンナンスした内容と今後の扱い方が書かれていた。とても丁寧な仕事だったなぁ。楽器メンテナンスに対しての想いを感じました。おすすめします。

しかし、良い時代になったなぁ。自分が学生の頃は、中古の楽器を探すことなんてできなかったから、新品を買うか、知り合いから譲ってもらうぐらいしかなかったからなぁ。学校の楽器もメルカリで探して買えば、いいんじゃないかな。そうすれば文化系部活で最高額だろう吹奏楽部予算も削減できるんじゃないかねぇ。(提携楽器屋がもうからなくなるけど…)

自宅に戻り、ホルンを持った娘は「ヤバい」と何度も言ってました。それだけ嬉しかったのでしょう。

ベルに自分が写り込んでしまうぐらいキレイなホルン
ホルンを手にしてヤバいしか言わない娘

自分が学生の頃、学校の楽器でしたが、楽器は大切にしていました。オイル差しはもちろん、たまに洗浄をしたりもしていて、卒業してからも他の部員からは「楽器を大切にしていた」と言われたり。

それだけ、楽器というのは、自分の中では大切なもので、娘にもそうあって欲しいなぁと思います。学生の頃、「自分の楽器を持ちたい」という憧れを自分の子どもで叶えることができました。ちょっと感無量です。

春には、娘の高校の定期演奏会があります。ホルンのメロディもあるカッコいい曲を吹くと聞いています。「定演の曲が決まったので聞いて欲しい!」と一緒にYouTubeで観たけど、カッコよかった。

富士山という曲。めちゃくちゃカッコいい!ただ、ホルンの高音の連続音が鬼だな…。めっちゃ難しそう!

火の女神という曲。ホルンのグリッサンドがヤバい。ホルンの主旋律パートもあるので、楽しみ。

これから、自分の憧れを形にしてくれた娘の演奏を聴くのが楽しみです。おしまい。